【湘南校舎ラグビーフットボール部】
〈卒業生特集⑤〉
SH 柴田凌光
21―22年シーズンを通して9番を背負った柴田凌光(体育学部4年)。それまではそう単純な道のりでもなく、紆余曲折した。チーム内のさまざまなレベルで経験を積み、4年目には花を咲かせた。
【4年間の記録】(関東大学春季大会・関東大学リーグ戦・全国大学選手権大会)
公式戦初出場:2019年6月16日 関東大学春季大会 対慶應義塾大
公式初トライ:2021年10月9日 関東大学リーグ戦 対大東文化大
受賞歴:関東大学リーグ戦ベスト15(2021年度)
紆余曲折した4年間
将来は“桜のジャージー”を纏って同期には丸山凜太朗(体育学部4年)といった高校ラグビー界を彩ったメンバーが多くそろう。大学入学当初こそ、「(同期の)すごさがわからなかった」。しかし同期46人中20人ほどが1年時から試合に出場し、上のチームにも絡んでいることの“すごさ”に徐々に気づいたという。
東海大のラグビー部には8、9つほどのレベル別に分かれているが、柴田が2年のちょうど新チームが始動した春先、コーチ陣から「『声』が聞こえない」と言われ、一番下のチームに降格。柴田が努めるSHは、試合中に常に発生する接点でFWとBKをつなぐポジションの特性上、人一倍声を出しながらプレーすることを求められるが、「自分では声を出しているつもりでいた。それがコート外にまでは聞こえていなかった」という。さらに2年時の後半から新型コロナのまん延に伴って、3年時は地元に戻り自主練に励んだが、そこでけがを負った。シーズン最初の夏合宿では再び一番下のチームからのスタートとなった。上のチームに上がれないまま迎えた関東大学リーグ第4戦の専修大戦。練習の様子などから、「コーチ陣にチャンスを与えてもらってリザーブに入った。実際に試合に出してもらい、そこでの出来がよかった」。こうしてチャンスをモノにすると、それからは常に上のチームをキープし続けた。
ラストイヤーとなった2021年シーズンは、「もっと声を出せるようになるだろう」というコーチ陣の期待も込めてBKリーダーにも選ばれた。2年ぶりの開催となった関東大学春季大会に始まり、初戦の早稲田大戦ではスタメンを勝ち取った。初めて9番のファーストジャージーに袖を通し、もちろん「嬉しい気持ちはあった」が、ポジション争いが激しい中でそこまでの余裕もなかった。課題とする「声」に関しても、春季大会やリーグ戦の試合中はいつも誰よりも大きな声が響いていた。けがなどで出場できなかった試合もあるが、それでも今シーズン東海大の9番を譲ることはなかった。

大学選手権の準々決勝の大舞台・国立でも変わらず9番をつけた柴田。
「優勝するために、今まで負けてきた相手だからこそ勝たなきゃいけない」という思いだった。前半のスコアこそ3―21だったが、「差があるとはあまり感じていなかった。取り切らなければいけない場面で取りきれなかったのは大きいが、このまま負けるわけにはいかないから切り替えていこう」と後半に向かった。5分にはラック横のスペースを見て自ら抜け出しラストパス。伊藤峻祐(体育学部3年)のトライを演出した。ここから勢いに乗って一時、逆転もした。しかし、それからは明大のディフェンスの前に得点を奪うことはできなかった。
ノーサイドの瞬間こそ涙は出なかった。
柴田にとってこの試合は、単に優勝するための通過点だけではなかった。「幼稚園から一緒にラグビーをしてきた幼馴染、樹と対戦したのは最初で最後、それも大舞台だった」から。
結果的には負けたが、最初で最後の対戦となった幼馴染の児玉樹選手とは「ありがとう。絶対優勝しろよ」と話したというが、それからは涙が止まらなかった――。
目標は日本代表柴田の将来的なビジョンは明確で、ラグビーキャリアの最終目標は日本代表選手だ。
まだその目標には遠い。
まずは、新天地・三菱重工相模原ダイナボアーズでの試合出場を目指す。
また一番下のチームからスタートすると同時にポジション争いも始まる。大学時代のように人数はいないものの、これまで強みとしてきた身長のアドバンテージも及ばないところがある。ポジション争いに勝つためには、「自主練とかもっと自分に時間を使う。自分にフォーカスして、これ以上のものを求めないと上には行けない」と柴田。今後は、大学ではあまり使う機会がなかったものの持ち味のキックに加えて、「自分が足りないところをプラスにしていければ」と話す。
木村監督からは、「能力はすごいものを持っている。だけどコミュニケーション能力がね、スクラムハーフとしてはまだまだ足りないね」と辛めに門出を祝われた。選手権の慶應義塾大学戦は、現役のSHとしてトヨタヴェルブリッツに所属する滑川剛人選手がレフリーを務めていたこの試合。試合後、木村監督は滑川レフリーから、「SHの子がもっと喋っていたら、もっと楽な試合になっていたかもね」と言われたそうだ。
木村監督が言うコミュニケーション能力は、プレー中に声を出し続けることはもちろんのこと、それに加えて試合を優位に進めるためのレフリーとのコミュニケーションのこと。
現に、日本代表のSH流大選手や齋藤直人選手(ともに東京サントリーサンゴリアス)らが、レフリーとコミュニケーションをとるシーンをよく目にするが、柴田にはまだそれは足りていないという。
日本代表への旅ははじまったばかりだ。
来る2027年、2031年にはラグビーワールドカップが開催される。
自分にフォーカスすることで紆余曲折するかもしれないがナンバーワンプレーヤーとして、今度は日本の9番を背負いたい。いつか東海大の同期、そして幼なじみとともに“桜のジャージー”を身に纏って、チームメートとして再会する日までー。








(記事・写真:廣瀬愛理)
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